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2021
TASCAM Series 102i を導入してみたものの...
残念な音質の TASCAM 102i USB Audio Interface
先日、Sadeの6枚組のLPレコードBOXセットを入手したことをきっかけに、ZoomのハンディーPCMレコーダを(H6)用いて大昔に購入したLPレコードを24bit/96KHz で取り込んで、我が家のディジタルオーディオライブラリに組み入れてた事を紹介した.この自分でデジタイズした音源が思いのほか音が良く、これまでの何百枚ものCD音源の音が貧弱な音に感じるようになったというのが本当のところだ.
ZoomのH6はハンディーPCMレコーダとしては高性能な方だが、如何せんバッテリー駆動のポータブル機なので音質を極めるという用途には向いていない.そこで、もう少し音質の良いAD変換機材はないものかと物色していたが、市販のオーディオ機材としては残念ながらTEAC SD-500HR、TASCAM DA-3000 ぐらいしか見当たらない.
この2機種は仕様としては似通っていて、家電ブランドでのルートがTEAC、楽器(プロオーディオ)ブランドがTASCAMという事のようだ.基本性能は殆ど同じだが、TASCAMブランドのDA-3000はプロオーディオ用の機能が付け加えられており、その分値段は高くなっているが、これらの追加機能は家庭用途では全く不要なので、本格的な録音を目指すのではなければ安価なTEAC SD-500HRの購入をお勧めする.
以前はKORGなどもう少しADコンバータの選択肢があったが、民生機でまともな音質を期待できそうなのは上記のTEAC/TASCAM製品か、RMEのADI-2 DAC FSぐらいだろうか.
オーディオ機器としてのADコンバータは殆ど選択肢がないが、楽器としての安価なUSBインタフェースを備えたオーディオインタフェースは市場に沢山出まわっている.その中で、USBバス給電ではなくACアダプタ方式の製品からTASCAM SERIES 102iを購入してみることにした.以前、同じTASCAM製品で、UH-7000という唯一のAC電源内蔵タイプのUSBインタフェース製品があったが、残念ながら販売中止になってしまった.
USBオーディオインタフェースは殆ど例外なく、USB(+5V)か単一のスイッチング電源(ACアダプタ)を用いており、機器の内部回路でチャージポンプ方式のスイッチング電源で必要な電源を作り出している.最近のチャージポンプ方式のスイッチング電源はかなり低ノイズ設計となっているとは言え、所詮スイッチング電源なので安価な製品では電源ノイズを無視できるレベルまで落とすことはできない.
折角の24bit/192KHzのAD/DACチップを搭載していても、電源環境があまりにも劣悪なので音質的には殆ど期待できないというのが実情だろう.まあ、楽器レベルとしての音質であればあまり気にしないのだろうが、オーディオファイル用途としては避けた方が無難だ.
音質面では殆ど期待できないが、安価なUSBオーディオインタフェース製品の中で、TASCAMのSeries 102i USB Audio Interface が DC 12Vの外部ACアダプタ電源で、ディスクリートチップTR方式のマイクプリアンプ搭載である程度音質を考慮された製品のようなので、とりあえずダメ元で試してみることにした.最初から期待していない製品なので、中を弄くり回して改造する事には何の躊躇もない.
12V ACアダプタ電源での駆動なので、USBバスパワーよりは安定稼働が期待できそう
バックパネルの各種インタフェース
一番お金が掛かっていそうな豪華なサイドパネル
やっぱり聞くに堪えない音だった...
TASCAM Series 102i の音質を一言で現せば『楽器レベルの音』だろうか.オーディオ製品レベルの音質を期待する方が間違いだったようだ.購入したその日の内に筐体をバラして、中の作りや回路設計を確認し音質改善策を探ることにした.
筐体の中はこんな感じ
メイン基板(表面)とフロントパネル基板
メイン基板(裏面側)のレイアウト
AD/DA変換チップは Cirrus Logic CS4272 を使用
チャージポンプ方式の電源変換(+12V ⇒ +5V/+3.3V/+1.8V/+1.2V, +8.0V/-8.0V)
電源の入力となるACアダプタ(+12V 2A)のノイズはこんな感じ
TASCAM Series 102i の値段(実売価格で3万数千円程度)からするともう少し基板やパーツにお金を掛けても良いのではないかと思うが、立派すぎるサイドパネルやCubaseLEなどのバンドルアプリケーションにお金が吸い取られているのかも...
先ずは、音質改善の第1段として、このチャージポンプ方式のスイッチング電源のノイズを取り去ることから始めてみることにしよう.
Series 102iはやはりDTM専用の機材として使うしか使い道がなさそう
Series 102iの外見からは、2 in / 2 out のシンプルなオーディオ機器と勘違いしてしまうが、中身はPCやMacと接続して用いるマルチチャネル対応のDTM機材であって、スタンドアローンの一般的なオーディオ機器の感覚で使おうとすると訳の解らない仕様に悩まされるだろう.一般的なオーディオユーザにはお勧めできない代物だ.
PCやMacからはUSBオーディオデバイスとして扱われるが、Series 102i は 10 ch.の入力、4 ch.の出力デバイスとして扱われる.
10ch.入力、4ch.出力として扱われる
最初、ライン入力で ch. 1, 2 にStereo信号を入力して、それをそのままMonitor Out から出力して音を出したところ、何故か両方の出力チャネルの信号がモノラル化されて出力されてしまった.最初は訳が解らずに悩んだが、TASCAMの専用アプリケーションの設定画面で、各入出力チャネルを設定しないとまともに機能しないことが解り、2 in/2 out の設定を行ってようやくStereo信号の音出しができるようになった.
とりあえずPC/MacのUSB経由の再生では正しくStereo信号を再生できるようになったが、Light MPDからのUSB再生では依然としてモノラル再生しかできない状態だ.原因はわからないが、USBオーディオクラスのネゴシエーションがうまく機能していない?のかもしれない.MPD側は2ch Stereo、Series 102i側は4ch なのでこの辺の食い違いが原因ではないだろうか.Series 102i側を強制的に2ch outputとする方法があれば解決しそうな気がする.
残念ながら、Series 102iは単体のHi-Fiオーディオ再生用のUSB-DACとしては使い物にならないだろう.
専用アプリでMixerの入力チャネルを設定してL,Rに振り分けないとStereo化されない
入出力チャネルを正しく設定しないと使いこなせない
ミキシングコンソール画面からおわかりのように、Series 102iの内部で勝手にミキシングやDSPエフェクトなどの処理が行われてしまっているので、余計な処理が行われないようにきちんと設定しないと、Hi-Fiオーディオ用途の録再デバイスとしては使い物にならない.(DTM用途としての善し悪しではないので、誤解の無いように
Series 102iの音質のクオリティーが低いのは、単に安っぽいハードウェアの作りだけではなく、余計な処理を内部で勝手に行っていることが原因だろう.高音質オーディオ機器としての利用は諦め、とりあえず高音質DTM機材としての活用の方法を見いだすことにしょうと思う.