12
11
2025
MAP-Eの仕組みを簡単におさらいしておく
IPv4 over IPV6 の一方の雄であるMAP-Eの仕組みを紐解いてみる
ここ5〜6年の間で、NTTのフレッツ光をアクセス回線としたインターネット接続環境が従来のPPPoE方式から急速にIPoE方式に切り替わってしまった.IPoEによるIPv6ネイティブ接続が可能となったが、世の中はまだIPv4でしかアクセスできないサイトやサービスが沢山あるので、従来のIPv4系の接続方式もサポートしなければならないのが現状だ.
IPoE環境下で、従来のIPv4接続を可能とするために、IPv6で構成されたネットワーク環境でIPv4のパケットをカプセル化して無理やり通してしまうというのがいわゆる IPv4 over IPv6 トンネリングという手法だ.このIPv4 over IPv6 トンネリング方式には幾つかの方式が RFC で規定されており、日本では MAP-E方式 [ Mapping of Address and Port with Encapsulation (MAP-E) : RFC 7597 ] と DS-Lite方式 [ Dual-Stack Lite Broadband Deployments Following IPv4 Exhaustion : RFC 6333 ] がメジャーなIPv4 over IPv6 トンネリング方式として採用されている.
DS-Lite方式については以前の記事で説明していたので、今回かもめインターネットが再販している:v6プラスサービスを契約したので、先ずはMAP-EによるIPv4環境の使い勝手を探って見ることにした.
MAP-E方式の利用は今回が初めてということもあり、MAP-Eに関する知識も不足していたので先ずはMAP-Eの仕組みから理解することにした.
MAP-Eの概要
JPIX v6プラスサービス(MAP-E方式)の利用イメージ
日本でのMAP-E系サービスのVNE事業者として草分け的な存在のJPIX(旧JPNE)では、『v6プラス』を提供しており、MAP-Eの元祖と言っても良いだろう.JPIXさんではv6プラスサービスの技術的な解説書『徹底解説 v6プラス』を出版しており、そのPDF版を無償で提供している.
この『徹底解説 v6プラス』の内容は、技術的な専門書にもかかわらず、ネットワークの専門家でなくても解り易い記述となっている.特に、IPoE系のサービスを提供しなければならなくなった背景や日本でのFLET’Sというネットワーク環境の特殊性などについても学べるとても興味深い内容だ.ネットワークに携わるのであれば是非とも目を通しておくことをお薦めする.
MAP-Eの内容についての詳細は、RFC 7597 を読むしかないのだが、『徹底解説 v6プラス』に記述があるように、残念ながらJPIXのv6プラスサービスはRFC 7597がまだドラフトだった頃の実装で、最終的なRFC 7597の内容とは異なる独自の実装とのことだ.JPIXのホームページの『公開情報』に、機器メーカーがv6プラスサービス対応ルータを開発する際のガイドラインが公開されているのだが、僅か2ページ程の殆ど意味のない情報だ.MAP-Eではマップルール配信サーバが需要な役割を担っているようだが、残念ながら詳しい内容はJPIXさんとの間でNDA契約を結んで情報提供を受けないとならないので、機器メーカー以外がこの情報を入手するのは難しそうだ.
・v6プラス対応製品開発ガイド https://www.jpix.ad.jp/files/developer_guide_v6plus_v1.3.pdf
・「v6プラス」固定IPサービス対応製品開発ガイド
ユーザに割り当てられるポートを決める仕組み
MAP-Eでは1つのIPv4グローバルアドレスを複数ユーザで共有しているが、TCP/IP, UDP/IP ではIPアドレスあたり 65,535個のポート番号を用いることができる.この内、最初の 0〜1023番のポートはシステムポートとして使われているのでこの範囲を除く 1,024 〜 65535 のポートがユーザが利用可能なポートの範囲となる.
このユーザ利用可能ポートをどのように分割してユーザ毎に割り振るのかは、MAP-Eプロバイダによって異なるが、PSID (Port-Set Identifier)という一意な番号からGMAマッピングアルゴリズムによって、ユーザに割り当てられる一連のポート番号セットが決められている.
ポート番号は16bitsの整数形式で表現することになるが、この16bitsを次の様な3つのパートに区分している.
16bitsの整数で表されるポート番号の内部構成
PSIDはユーザ毎に一意となり、PSIDのbit数kの値は一つのIPアドレスを最大何ユーザで共有するかによって必要な長さを決めることになる.分割数(ユーザ数)をRとすると、R = 2^k となる.残りのMSB側の i とLSB側の j の組み合わせで、ポート番号をどのように割り振るのか決定する.
i は連続するポートのブロックに対するインデクスで、j のbit数bによって連続するポートのブロックのサイズ (M = 2 ^b)が決まる.PSIDのサイズは固定なので、iとjのビット数をどのように配分するかによって割り当てるポートの構成が決まることになる.割り当てられるポートの個数は一定なので、jのビット数の割合を増やして大きめのブロックサイズを指定すると、割り当てられるブロックの個数は少なくなる.
ブロックのインデクスiの取る範囲は、ceil( N / ( R * M ) 〜 trunc( 65536 / (R * M) ) – 1 となる N は除外するポートの上限値で、0〜1,023のシステムポートを除外する場合は N=1,024とする.jのインデクスは単純に0 〜 M – 1となる.
PSIDとiとjの割当が決まっている場合、ポート番号は 式(1) によって簡単に求めることができる.また、逆にポート番号からPSIDの値を式(2) から簡単に求めることが可能だ.
例えば a=4、j=4 とすると、ユーザには16個の連続するポートのブロックを15ブロック(セット#1〜#15)となる.システムポート0〜1023は割当から外すので、最初のセット#0は除外される.同様にa=6, j=2 とすると、連続する4ポートのブロックが63ブロック割り当てられることになる.
このポート番号の割り振りの方法はMAP-Eプロバイダ事業者が独自に決めることが可能で、JPIXのv6プラスサービスでは a=4、k=8、j=4 (連続した16個のポートのブロックを15セット:15×16 = 240個)となっているようだ.VNE事業者は一つのIPアドレスに割り当てるユーザ数を任意に調整できるので、ポート数の割当を増やしたオプションサービスなどを別料金で展開するというような事も行われている.
MAP-Eのユーザ側のIPv6トンネルアドレスの構造
MAPドメインでユーザ側のルータに割り当てるIPv6のトンネル終端アドレスは、MAPドメインで使われる共通のIPv6アドレスのprefix情報とIPv4のprefix情報並びにPSID情報から一意に決まる.ユーザ側のトンネル終端のIPv6アドレスは、ユーザに割り振られたIPv6 prefixが決まると、共有されるIPv4アドレスとポート範囲が決まることになる.何らかの要因でFLET’Sから割り振られるIPv6 prefixが変わるとIPv4アドレスと割り振られたポート範囲も変更となる.
ユーザ側のトンネル終端のIPv6アドレスの構造を下記に示す.
MAP-Eでのユーザ側IPV6トンネル終端アドレスの構造
MAPドメインで用いるIPv4アドレスはVNE事業者が所有するグローバルIPv4アドレスを切り出してMAP-Eユーザに提供するもので、MAP-Eのユーザ規模に応じて、IPv4 prefixのサイズを決めている.同様にIPv6のprefixもMAP-Eのユーザ規模に応じて定めている.実際にエンドユーザに割り当てられるIPv6のprefixはこのMAPドメインのIPv6 prefix から切り出したものとなる.FLET’Sの場合、ユーザに割り振られるprefix長は56bitsか64bitsとなる.
IPv4アドレスのsuffix部分とPSIDからなる Embedded-Address (EA) bitを埋め込んだIPv6 prefixがユーザに割当てられているので、実際に割り当てられた IPv6 prefix情報から、IPv4アドレスとPSIDを取得することができる.EA bitの構成はMAP-Eの規模やポート割当方針に応じて予めVNE事業者側で定めている.
128bitsのIPv6アドレスの下位64bits部分のInterface ID部分の構成はRFC7597で定義されており、IPv4アドレスとPSIDを埋め込む形となる.尚、JPIXのv6プラスではInterface IDの構造はRFC7597で定義されたものとは異なる構成となっているそうだ.
IPv6 prefixからIPv4アドレスとPSIDが決まる仕組みは分かり難いので、実際に具体的な値を使って例示してみる.
MAP-EのIPv4アドレスとPSIDの計算例
MAP-Eのマッピングルールを得るにはどのようにしたら良いのだろうか?
MAP-Eで用いられているIPアドレスやポートマッピングの仕組みはおおよそ理解できたが、MAPドメインのIPv4 prefix、IPv6 prefixやEAビット長などの情報が必要になるが、ユーザ側のルータ機器でMAP-Eの設定を行うために必要となるこれらのマッピングルール情報はどのようにして取得すれば良いのか不明だ.
JPIXのv6プラスサービスについては、JPIXのホームページ『「v6プラス」対応機種』にv6プラスサービスに対応可能なルータの一覧が公開されている.一般家庭用のルータから業務用のルータまで網羅されているが、これらのルータ機器ではエンドユーザによる面倒な設定は不要で、簡単に設定可能なのでISP事業者はエンドユーザサポートの手間が省けると説明されている.
これらのルータ機器メーカはJPIXとの間で秘密保持契約を結んでいて、v6プラスサービスのMAP-E設定に関する技術情報の提供を受けており、v6プラスサービスで必要となるマッピングルールなどの面倒な設定をJPIXのマップルール配信サーバから取得しているか、或いはルータ側にマッピングルールに関する情報が設定されているのだろう.
v6プラスのルータ接続の流れ
とりあえずNECのIXシリーズなどの業務用のルータに関しては、v6プラス用のコンフィグ設定事例が紹介されているので、それらの設定情報を眺めて見ることにする.
NEC IXシリーズの設定例、『v6プラス (MAP-E方式) 設定ガイド』から、主要部分を抜粋する.
ip route default Tunnel0.0
ip dhcp enable
!
ipv6 dhcp enable
!
proxy-dns ip enable
proxy-dns ip request both
!
ip dhcp profile dhcpv4-sv
dns-server 192.168.1.1
!
ipv6 dhcp client-profile dhcpv6-cl
option-request dns-servers
ia-pd subscriber GigaEthernet1.0 ::/64 eui-64
!
ipv6 dhcp server-profile dhcpv6-sv
dns-server dhcp
!
interface GigaEthernet0.0
no ip address
ipv6 enable
ipv6 traffic-class tos 0
ipv6 autoselect enable
ipv6 autoselect ra-delay 0
ipv6 dhcp client dhcpv6-cl
ipv6 nd proxy GigaEthernet1.0
no shutdown
!
interface GigaEthernet1.0
ip address 192.168.1.1/24
ip dhcp binding dhcpv4-sv
ipv6 enable
ipv6 dhcp server dhcpv6-sv
ipv6 nd ra enable
ipv6 nd ra other-config-flag
no shutdown
!
interface Tunnel0.0
tunnel mode map-e
ip address map-e
ip tcp adjust-mss auto
ip napt enable
no shutdown
上記の設定の内、MAP-Eに直接関係するのは Tunnel0.0 インタフェースの部分で、ipipトンネルのモードとして “map-e” を指定して、IPv4アドレスを “map-e” によって取得するという設定だけだ.この2行の設定だけで、自動的にv6プラスサービスのMAP-Eに対応したIPv4アドレスとポートの割当設定を自動で行ってくれている.
ちなみに、他のVNE事業者が提供するMAP-EサービスのOCNバーチャルコネクトとBIGLOBE IPv6オプションのTunnel設定も載せておく.
[ OCNバーチャルコネクト ]
interface Tunnel0.0
tunnel mode map-e ocn
ip address map-e
ip tcp adjust-mss auto
ip napt enable
no shutdown
!
[ BIGLOBE IPv6オプション ]
interface Tunnel0.0
tunnel mode map-e
ip address map-e
ip tcp adjust-mss auto
ip napt enable
no shutdown
!
OCNバーチャルコネクトの方は ”tunnel mode map-e ocn” となっており、オプションのパラメータ “ocn” が指定されているので、”ocn” 固有のパラメータが有るのだろう.BIGLOBE IPv6オプションの方は、v6プラスと全く同じなので、恐らくv6プラスと同じMAP-Eの仕様なのだろう.
何れにしても、市販のルータに関してはMAP-Eの実装内容は完全にブラックボックスで、その仕組を窺い知ることはできないようだ.
実際にIX-2215にMAP-Eの設定を流し込んで、MAP-E関連のIPv4, IPv6アドレスやポート割当がどのようになっているのか確認してみた.インタフェースの設定の一部を示す.
ipv6 dhcp client-profile dhcpv6pd-client
option-request dns-servers
option-request ntp-servers
ia-pd subscriber GigaEthernet2:1.1 ::fe/64 <=== GigaEthernet2:1.1に設定するIPv6アドレス
...
!
...
interface GigaEthernet2:1.1
description v6plus-mape
encapsulation dot1q 200 tpid 8100
auto-connect
ip address 172.25.200.254/24
ip dhcp binding vlan200profile
ipv6 enable
ipv6 dhcp server dhcpv6pd-sv200
ipv6 nd ra enable
ipv6 nd ra other-config-flag
shutdown
!
...
interface Tunnel0.0
description JPIX v6plus MAP-E
tunnel mode map-e
ip address map-e
ip tcp adjust-mss auto
ip napt enable
no shutdown
!
実際にインタフェースGigaEthernet2:1.1 に割り当てられたIPv6アドレスとMAP-EのIPv4アドレス、ポートの割当状況を確認してみると、
Interface GigaEthernet0.0 is up, line protocol is up
Global address(es):
240b:xxxx:xx6c:f400:: prefixlen 56 anycast <=== DHCPv6-PDにより割り振られた IPv6 prefix
Link-local address(es):
fe80::260:b9ff:fee2:4624 prefixlen 64
fe80:: prefixlen 64 anycast
...
Interface GigaEthernet2:1.1 is up, line protocol is up <=== MAP-E IPv6トンネルを張るインタフェース
Global address(es):
240b:xxxx:xx6c:f400::fe prefixlen 64 <=== GigaEthernet2:1.1に設定されたIPv6アドレス
Valid lifetime 14318, preferred lifetime 12518
240b:xxxx:xx6c:f400:6a:xxxx:6c00:f400 prefixlen 64 <=== MAP-Eトンネル用に自動設定されたIPv6アドレス
240b:xxxx:xx6c:f400:: prefixlen 64 anycast
Link-local address(es):
fe80::26a:fbff:fee2:4624 prefixlen 64
fe80:: prefixlen 64 anycast
...
ix2215-01(config)# show map status <=== MAP-Eの状況表示コマンド
Tunnel interface: Tunnel0.0
Vendor Name: JPIX <=== VNE事業者情報が判別されている
Status: active
Transport information:
CE IPv4 address is 106.XX.YY.108/32 <=== MAP-E用IPv4アドレス
CE IPv6 address is 240b:xxxx:xx6c:f400:6a:xxxx:6c00:f400/64 <=== MAP-E用IPv6アドレス
NAPT translation port:
8000-8015, 12096-12111, 16192-16207 <=== ユーザに割り当てられたポートの範囲
20288-20303, 24384-24399, 28480-28495
32576-32591, 36672-36687, 40768-40783
44864-44879, 48960-48975, 53056-53071
57152-57167, 61248-61263, 65344-65359
Request statistics:
Last Request: -
Last Update : -
0 request, 0 success, 0 failure
ix2215-01(config)# show int Tunnel0.0 <=== MAP-E用のトンネルの状況表示
Interface Tunnel0.0 is up
Description: JPIX v6plus MAP-E
Fundamental MTU is 1460 octets
Current bandwidth 1G b/s, QoS is disabled
Datalink header cache type is ipv6-tunnel: 0/0 (standby/dynamic)
IPv4 subsystem connected, physical layer is up, 0:02:04
Dialer auto-connect is enabled
Inbound call is enabled
Outbound call is enabled
Dial on demand restraint is disabled, 0 disconnect
SNMP MIB-2:
ifIndex is 1205
Logical INTERFACE:
Elapsed time after clear counters 0:02:25
1 packets input, 116 bytes, 0 errors
1 unicasts, 0 non-unicasts, 0 unknown protos
0 drops, 0 misc errors
1 output requests, 116 bytes, 0 errors
1 unicasts, 0 non-unicasts
0 overflows, 0 neighbor unreachable, 0 misc errors
1 link-up detected, 0 link-down detected
Encapsulation TUNNEL:
Tunnel mode is map-e
Tunnel is ready
Destination address is 2404:9200:225:100::64 <=== JPIX MAP-E BRのアドレス
Source address is 240b:xxxx:xx6c:f400:6a:xxxxx:6c00:f400
Nexthop address is fe80::d677:98ff:fe1c:6f53
Outgoing interface is GigaEthernet0.0
Interface MTU is 1460
Path MTU is 1500
NAPT translation port:
8000-8015, 12096-12111, 16192-16207
20288-20303, 24384-24399, 28480-28495
32576-32591, 36672-36687, 40768-40783
44864-44879, 48960-48975, 53056-53071
57152-57167, 61248-61263, 65344-65359
Statistics:
1 packets input, 116 bytes, 0 errors
1 packets output, 116 bytes, 0 errors
Received ICMP messages:
0 errors
ix2215-01(config)#
上記の情報から、JPIXから割当を受けたIPv6 Prefixは 240b:aaaa:bbbb:f400::/56 で、IPv4共有アドレスは 106.XX.YY.108/32、連続するポートの個数は16個(b=4)、ポートブロックの数は15個(a=4)、PSIDの長さは8bitsであることが判る.PSIDの値は、0xf4(244d) であることは、実際に割り当てられたポート番号から、式(2)を用いて算出可能だ.
v6プラスのMAP-Eサービスを利用するための必須情報(未公開?)である、IPv4 prefix、IPv6 prefix、EA bitの長さを上記の情報から推定しようとしたが、割り当てられたIPv4アドレスの情報だけではprefix長が判らないので、結局これらの3つの正確なパラメータを得ることはできない.
尚、OpenWRTでの設定方法に関するインターネット上の情報などから、v6プラスのMAP-Eサービスでは、EA bit長 25bits( IPv4 prefix長 15bits, PSID長 8bits )、 IPv6 prefix長 31bits と言う事のようだ.

JPIX v6プラスのMAP-EサービスでのIPv6トンネルアドレスのマッピング状況
MAP-Eを利用する場合はNTTのホームゲートウェイに注意!!!
MAPルールをDHCPv6を用いて取得する方法が、"DHCPv6 Options for Configuration of Softwire Address and Port-Mapped Clients" RFC 7598 で規定されているので、DHCPv6のオプションを用いてルータがMAPルールを取得することが可能であるが、残念ながらJPIXのv6プラスではDHCPv6のオプションによるMAPルールの提供は行われていない.
FLET'Sを利用したMAP-E系のサービスでDHCPv6のオプションを用いたMAP情報の提供が行われていないのは、DHCPv6配信サーバやRAを配信するルータ設備がVNE事業者側ではなくNTTのFLET'S側の設備で行われているので、VNE事業者側では対応できないためだ.このため、VNE事業者側がMAPルール配信サーバを別途用意して、このサーバからマップルールを配信する仕組みになっている.
NTT謹製のホームゲートウェイでは、フレッツ・ジョイントというサービスがあって、MAP-Eなどの設定がホームゲートウェイ側で自動で設定されるようだが、この機能を使うとホームゲートウェイ配下に設置したユーザのルータでMAP-Eによる接続ができなくなるようだ.(『ホームゲートウェイからUNI出しをしたらMAP-Eが動かなかった話』: RyotaK's Blog )
VNE事業者側ではホームゲートウェイが設置されている場合は、フレッツ・ジョイントによる自動設定モードでマップルールを配信する仕様になっているらしく、この設定になっている場合、市販のルータがVNE事業者のマップルールサーバのAPIにアクセスしてMAP-Eのルール情報を取得でする際にエラーとなって取得できなくなるということらしい.
ホームゲートウェイでの自動設定を行わないように設定を切り替えるにはVNE事業者側の設定変更が必要になるので、I.S.P.を通じてVNE事業者に設定変更を依頼する必要がある.enひかりさんではこの設定変更の手数料は2,200円掛かるので、自前のルータでIPoE系のサービスを利用する場合には、ホームゲートウェイの利用を避けた方が良いだろう.
かもめインターネットのv6プラスサービスの申し込み画面では、ホームゲートウェイか自前のv6プラス対応ルータのどちらかを選択するようになっているので、ホームゲートウェイを選択した場合は、配下に接続した自前のルータでのMAP-E接続はできなくなるので注意が必要だ.
v6プラスサービスの申し込み画面ではホームゲートウェイの使用の有無を選択可能
NTTが変てこりんな仕様の中途半端なサービスをエンドユーザに押し付けようとするのは困ったものだ.NTTは土管やさんに徹して、ホームゲートウェイのような余計なお節介ルータをユーザに押し付けることを辞めるべきだ.NTTがエンドユーザに提供しているサービスはどれもこれも酷いものばかりで、全く使い物にならないのは言うまでもないだろう.
私はホームゲートウェイを一度も導入したことがないので、実際にONUと自前のルータの間に入れるとどのような振る舞いをするのかが良くわからないが、ホームゲートウェイが間に介在するとかなり厄介なトラブルに見舞われることは間違いないようだ.
YAMAHAのNVRシリーズを用いるとNVR単体でもひかり電話も使えるので、ホームゲートウェイが無くてもMAP-Eや固定IPサービスなどをNVRだけでで簡単に利用可能になる.ただ、YAMAHAのNVRシリーズはNECのIXシリーズと較べると、機能が貧弱で我が家のメインルータとしては約不足だったので、ONU <--> IX-2215 <--> NVR <--> アナログ電話 という構成でひかり電話を利用していたことがある.
NVRの代わりに ONU <--> IX-2215 <--> HGW <--> アナログ電話 のような構成も可能なようだが、IX-2215側で HGWに対してDHCPv6を用いてひかり電話接続のためのオプション情報を提供しなければならないので、そのためにかなり面倒で手間の掛かる作業が必要になる.
IX-2215のDHCPv6サーバ機能ではひかり電話接続のためのオプション情報を提供することができないので、別途自前のDHCPv6サーバを立てて、ひかり電話に関するオプション情報をホームゲートウェイに渡してあげる必要があるようだ.(詳細は、『IX2215直下にHGWを置いてひかり電話をする【2024年夏版】』を参照して欲しい)
自前のルータでまともなIPv6/IPv4デュアルスタックネットワークを組みたければ、間違ってもホームゲートウェイを自前のルータの前に接続してはいけない.正体不明のホームゲートウェイの仕様や振る舞いに悩まされることになるだろう.危うきに近寄らず!!!
DHCPv6によるMAPルールの取得方法について
NTTのFLET’Sの環境ではDHCPv6のオプションを用いたMAPルール情報取得は直ぐには実現しそうにないが、NURO光などでもMAP-E化が進んでいるようなので、DHCPv6のオプションを用いたMAPルール情報の取得方法について、"DHCPv6 Options for Configuration of Softwire Address and Port-Mapped Clients" (RFC 7598)の内容をざっと眺めてみることにする.
RFC 7598はIETFの Softwire Working Group によって作成されたもので、Softwire Working Groupでは、IPトンネリング技術を用いたネットワーク網を構築する手法に取り組んでいる.このドキュメントでは "Softwire46" という用語が使われているが、IPv6への移行のために、IPv6ネットワーク上でIPv4接続を行う移行方法についての総称的な用語だと思えば良いだろう.
このRFC 7598では、主に MAP-E (RFC 7597)、"Mapping of Address and Port using Translation" (MAP-T : RFC 7599 )、"Lightweight 4over6"(lw4o6: RFC 7596) について、DHCPv6のオプションとして実装する方法について記されている.
MAP-EとMAP-Tでは "OPTION_S46_RULE" オプションを利用し、lw4o6では "OPTION_S46_V4V6BIND" オプションを利用する.ユーザ側のルータが A+P ドメイン(MAPドメイン)の外側の世界(世間一般のインターネット)と通信を行うためには、BRのアドレスやprefixが必要となるが、この情報は "OPTION_S46_BR" を利用する.
MAP-T では "OPTION_S46_DMR" というIPv6アドレスとIPv4アドレスを変換するためのデフォルトマッピングルールに関するオプションを従える.この他に、"OPTION_S46_PORTPARAMS" というオプションが有り、ポートセットのポート範囲を決めるためのパラメータ情報として用いることができる.
MAP-Eで用いられるマッピングルールを提供するDHCPv6のオプションパラメータ
これらのDHCPv6のオプション項目がユーザ側のルータに提供されると、ルータ側ではMAP-E関連の設定が簡単になり、ルータのコストも下がることだろう.OpenWRTなどのフリーのルータソフトでもより簡単にMAP-Eの機能を実装可能となるだろう.
現状では、アクセスネットワークとしてFLET'Sを使わざる負えないので、これらのDHCPv6オプションがNTT側から提供される見込みは薄いが、VNE事業者からのIPV6アドレスの払い出しをNTTの設備が請け負っているので、同様な仕組みでDHCPv6オプションの払い出しも実現可能だろう.
現状で、日本のMAP-EサービスがDHCPv6のオプションを利用したMAPマッピングルールに対応していないので、市販のルータでもこのオプションを実装したものはまだないのではないかと思う.NECのIXルータの機能説明書を見る限り、まだこのオプションは実装されていなかった.
2.21.1 サポートメッセージ
IX2000/IX3000 シリーズでは、現在以下のDHCPv6 オプションをサポートしています。
• メッセージ
➢ Solicit (1)
➢ Advertise (2)
➢ Request (3)
➢ Renew (5)
➢ Rebind (6)
➢ Reply (7)
➢ Reconfigure (10)
➢ Information Request (11)
• オプション
➢ Client Identifier (1)
➢ Server Identifier (2)
➢ Option Request Option (6)
➢ Preference (7)
➢ Elapsed Time (8)
➢ Status Code (13)
➢ Rapid Commit (14)
➢ Reconfigure Message (19)
➢ Reconfigure Accept (20)
➢ Domain Name Servers (23)
➢ IA PD (25)、IA Prefix (26)
➢ NTP Servers (31)